良いもんつたえ隊 【映画でじぶんを変えてゆこう】

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『ピクサー・ショート・フィルム』内容感想を語ります!ピクサーの想像力、恐るべし。

ピクサー・ショート・フィルム&ピクサー・ストーリー 完全保存版 [DVD]

ピクサーが最初に創作したアニメーション『アンドレとウォーリーB.の冒険』など13もの短編を収録したDVD。

ストーリーを組み立てる段階でピクサーの監督が何を考えているかを紹介する『音声解説』、ピクサー創設当時の様子を語る『ボーナス・トラック』付き。

物語のイメージを膨らませ、語るという点で非常に勉強になる作品。

「愉快なストーリー」とはこういうこと!

を僕に示してくれました。

 

 

1984年から2007年までにピクサーが創作した短編アニメーションのうち、選りすぐりの13作品を収録した映像作品。全部で一時間程度の内容。その短編を担当した監督による音声解説も収録されています。ピクサーの監督で有名なジョン・ラセターも彼がつくった作品についてちゃんと解説してくれますよ。

 

ピクサー創設当時の感想を重要人物5人で説明する『ボーナス・トラック』も必見です。ジョン・ラセター監督はもちろんのこと“スティーブジョブズが上司”は最悪!?『ピクサー流 創造するちから』 - 良いもんつたえ隊 【映画でじぶんを変えてゆこう】の記事でご紹介したエド・キャットムル社長ピクサー・アニメーションの社長であり、ディズニー・アニメーション社長も兼任しているすごい人)も画面に現れて、その当時に自分が考えていたことやピクサーに降りかかった困難について説明してくれます。

 

また、本短編集はエド・キャットマル社長の著書『ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法の第一部を読んでから観賞すると発見が多くて楽しい! エドはその著書のなかでピクサーの創作ルールについて次のように語っています。

 

第一の原則は、「物語が一番偉い(Story Is King)」。つまり、技術であれ、物品販売のチャンスであれ、何であってもストーリーの妨げになってはならないことを意味する。『トイ・ストーリー』を観た人が、映画を創るために駆使したコンピュータ技術ではなく、自分がどう感じたかを語っていたのが誇らしかった。それは、いつも物語に導かれて映画をつくってきたことの直接の結果だと思っている。

 

ピクサー流 創造するちから』-p.101(下線筆者)

 

↑で語られている(「Story Is King」)とおり収録されている十三の短編どれをとってもストーリーが面白い!(30年前の作品もあるのにどの短編もストーリーの面白さという点では今でも通用するレベル……むしろ今のエンタメを簡単に越えている。それぐらい面白いです)。ピクサーにとって技術力の向上は当たり前で、その技術で何を表現するのかでクリエイターの質が決まる。彼らのプロとしての意識がビシビシ伝わってきます。「つくるものは必ず面白いものでないといけない」という現場の緊張感も感じられる。そしてこの緊張感は作品への強い没入感を生み出している。う~ん体感してほしい!! ですね。

 

では、実際に観賞した13の短編それぞれについて「あらすじ感想注目すべき点」など記載していきましょう!

 

↓13の短編とボーナス・トラック

 

『アンドレとウォーリーB.の冒険』

 

・あらすじ 

黄金色の森の中でアンドロイドのアンドレとおしりに鋭い針を持つウォーリーB.がときに激しく、ときに悪計を謀りながら追いかけっこする話。3分程度。『トムとジェリー』の話の骨格に近い。完成したのは1984年でピクサー初の記念すべきアニメーションでもある(最後に流れるBGMが教育ビデオのような曲調で新鮮です)。

 

・感想

まず、キャラクターの構造について。当時のCGは球体や円錐のモチーフを中心にキャラクターを構成し、体は涙滴形(涙のように下がふんわり丸くなってる形)にして身体の柔軟さを表現しています。この「涙滴形」が当時のCGの世界において革新的な表現方法だったそうです。球体、円錐、涙滴。この三つの形は『ミッキーマウス』の構成素子でもありますね。動作のパターンの幅(細かな変化)はほとんどなく、非常にシンプルに二人のキャラクターを動かしている。

当時は影を表現するアルゴリズムが存在していなかったため、画面に陰影はありません。ですので背景とキャラクターがなじんでなく(背景は2Dなのにキャラクターは3Dというちぐはぐ感がある)、その様子も当時のCGの限界を想像させます。

 

一方、動作に比べてキャラクターの表情の描き方は結構多彩です。あくび、眠たげなとろんとした目、睨みつける目、驚いて見開かれる目、動揺して震える目、苦笑い、にやけ笑い、たくらみ。目と口の動きで感情を表すCGは見事としか言いようがない。とくに、眠っていたアンドレが最初に起き上がるときの顔の表現や腕の動きの巧みさに注目してください。

 

CGの未来をほのかに感じさせてくれる。そんな短編でした。

 

なお、ピクサーアニメーションのエド・キャットムル社長は彼の著書『ピクサー流 創造するちから』で、本短編の製作現場でのジョンラセターの貢献について次のように評価しています。

 

映画のタイトルは『アンドレとウォーリーB.の冒険』に改められ、森の中で仰向けに寝ていたアンドレが目覚めると、目の前をウォーリーがブンブン飛び回っているシーンで始まる。慌てて飛び起きたアンドレは逃げ回るが、ウォーリーがぴったり後ろについて離れない。それだけのあらすじだ。あらすじと呼べるならば。正直言って、我々にとってはストーリーよりもコンピュータで何が描けるかを見せることのほうが重要だった。ジョンのすごいところは、たったこれだけの簡潔な構成の中にも、緊張感を生み出せることだった

 

出典:『ピクサー流 創造するちから』-p.63(下線筆者)

 

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

ピクサー流 創造するちから―小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法

 

 

「ジョンのすごいところは、たったこれだけの簡潔な構成の中にも、緊張感を生み出せることだった」の記述の意味がよくわかる内容です。

その緊張感、是非、感じてみてください!

 

 

『ルクソーJr.』

 

・あらすじ

お母さんスタンドと子どもスタンドの二つの電気スタンドが、一つのボールで遊ぶ話。子どもスタンドの大胆な行動にハラハラするお母さんスタンドの不安げな振る舞いが人間らしくてかわいい。1986年の作品。

 

・感想

ピクサーのシンボルにもなった電気スタンドが登場します。その電気スタンドのCGが素晴らしい! 現実の電気スタンドの構造を完全に再現しています。スタンドが首をかしげるときの「キキキキキ」とこすれる音にも注目。球・円錐形を越えて複雑なカタチを表現できるようになってる。

ボールのボヨンボヨンとする反発力やスタンドがボールに乗っかったときの「ぷしゅうぅ」と空気が抜ける様子、お母さんスタンドと子どもスタンドのやり取りのリアルさ。『アンドレとウォーリーB.の冒険』では表現できなかった陰影にも注目してください。CGがちゃんと進化しています!

 

実際にボールがそこにあるようですよ。

 

 

『レッズ・ドリーム』

 

・あらすじ 

雨の降り注ぐ深夜、サイクルショップのすみっこに片づけられた一輪車は、今日も寂しく眠りにつく。夢の中では不器用なピエロをその頭に乗せ、ジャグリングを披露して観客を楽しませている。自分を見てもらえている。でも、夢はいずれ醒めるもの。最後には……。レッズドリーム=50%オフの値札を貼られた赤い一輪車の寂しい願望のこと。1987年の作品。

 

・感想

雨の表現や店に並べられた自転車の造形、ピエロの球形ではない複雑な顔の曲線に注目。特筆すべきは体に付けられた50%のタグをはじきながら、一輪車が彼自身のペダルで小気味よくジャグリングするところ。そのシーンがこの短編のファインプレーですね。ジャグリングされているボールの影の激しさがCG技術の進歩を感じさせます。背後に流れる物悲しいBGMも秀逸。

 

夢から醒めた赤い一輪車が壁の柱にその頭を何回もこするラストにはくるものがある。

 

 

『ティン・トイ』

 

・あらすじ

多種多様な楽器を身にまとった演奏おもちゃが、四本足で動く「赤ん坊」というモンスターを怖がりながらも楽しませる話。唾液まみれの口に入れられるのを恐れて最初は逃げ回ってばかりだったが、転んで泣いている赤ん坊を心配して勇気を出して前に出る。が、赤ん坊のとった行動は予想を越えたもので……。1988年の作品。

 

・感想

トイ・ストーリー』の原点。アカデミー賞初受賞作でもある。おもちゃの視点で物語が進む内容や、赤ちゃんをモンスターのように描写している映像。おもちゃの役割を追求している点。二つの作品にはいろいろな共通点があります(どの要素が『トイ・ストーリー』につながったのか考えてみるのも楽しいですよ)。

とくに、この作品を製作するなかで「おもちゃは生きている」という発想を誕生させたのが大きい。音声解説でも「行方不明になったおもちゃがソファーの下で見つかるのは、そこに落としたからじゃない。おもちゃ自身が逃げたんだ」と語られてましたし(誰が言っていたかは判別できなかった……)。

アニメ調の大きな目とはまた違う「人間の小さくリアルな目」をCGで最初に描いた作品でもあるのかな~とも想像しました。

 

おもちゃの自我や役割を考えさせられる短編です。

 

 

『ニックナック』

 

・あらすじ

バカンス気分の人形たちが机の上で楽しく体を揺らしている。一方、ひとり離れた場所にいる雪だるまの置物は、バカンスとは正反対の「雪の世界」から抜け出せないまま。つるはしやドリルでガラスの壁を割ろうとするが、その反動で雪の国は机の上から床に盛大に落ちてしまう。そこで目にした世界とは……。1989年の作品。

 

・感想

立体映像化を志向して「左目」と「右目」の映像を別々に作ることで生まれた作品(立体メガネで観るタイプの作品)。スノードームに積もった雪が振動でドンっと舞い上がり、サラサラ落ちてくる表現に注目です。

 

 

『ゲーリーじいさんのチェス』

 

・あらすじ

「入れ歯を賭けたおじいさんの一人チェス」の模様を描いた作品。『カールじいさんの空飛ぶ家』で描写されたような「一人のおじいさんがその孤独な人生から徐々に愉快さを取り戻していく」そんな雰囲気がある1998年の作品。

 

・感想

お気に入りの短編です。

CG。『ティン・トイ』の怖い赤ちゃんから本作のおじいちゃんへのCGの進化はすごい(『ティン・トイ』から10年経っています)。まさに幼年期から究極体に進化した感じ(デジモン)。トコトコ歩くおじいちゃんの緩慢な動作や口をパクパクする様子に注目。キャラクターの表情も人間の顔らしい丸みとシャープさを上手く混ぜ合わせたCGに一気に変わってます。

とくにおじいちゃんがチェスの盤面を机の下からそっと顔を出してのぞいているシーン。目から上の映像だけで笑顔を表現してる。おじいちゃんの最後のチェックメイトは、CG技術の限界へのチェックメイトでもあるのかもしれません。背後に流れるオーケストラも秋の冷たさと高揚感を表現していて、作品の雰囲気を作ってますね。お洒落。

 

作品のリアリティーを捨てることで逆に映像の迫力につながる後半の演出が見事! 一人のキャラクターしか出さずドラマ性を演出する方法の模索の結果がここにあります。

 

 

『フォー・ザ・バーズ

 

・あらすじ

ブルーの小鳥の群れと一匹の大きくて能天気な鳥のやりとりを描いた短編。小学生の集団にYoutuberが突撃したようなイメージです。2001年の作品。

 

・感想

鳥がバサバサしたときの羽毛がゆるやかに降りていく表現がすごい。空気が確かにそこにある。風圧を計算するアルゴリズムがコンピューター上で走っている様子が想像できますね。これまでの短編には無かった集団の連携を描いたCGも良い。あっちもこっちも連動して(ときに無作為に)動いてる。鳥たちが頬を寄せるシーンは見事ですね。互いの頬の触感が伝わってきます。

 

大きな鳥のラストの動きも本物の動物らしい。

 

 

『マイクとサリーの新車でGO!』

 

・あらすじ

マイクの新車のエンジンがかからないことに二人が四苦八苦する話。サリーの適当な操縦でマイクの車や体もぐちゃぐちゃに。「うん、変だな……エアバッグが膨らまない」。2002年の作品で、『モンスターズ・インク』のボーナストラックの短編と同じ。

 

・感想

まさかの監督の子どもたちだけで音声解説を行うという斬新な手法で解説されます。子どもたちも最初は意気込んでて大人っぽいのですが、徐々に子どもらしさが出てくる声が可愛い。「It is adjustable!」(題名は後から変えられるという意味かな?)。スタッフの子どもが声優として出演することはありましたが、こういう手法もあったとは……。ピクサーの想像力、恐るべし。

サリーの毛の質感がよいですね。CGでの細かい描写も可能になっています。しかし、詳しく見てみると一本一本の毛はみんな同じ形をしていて、本数もそれほど多くない。2000年初期のCGの限界も見えました。そこからズートピア』のCGの素晴らしさもわかります。

 

モンスターズ・インク』の特典でこの短編を見た方は多いと思いますが、子どもたちだけの音声解説を聴いたことはないのでは?

 

 

バウンディン』

 

・あらすじ

小さな丘でタップダンスしている一匹のヒツジ。周りの動物もそのリズムにつられてジャンプしたり笑いあったり大はしゃぎ。けれども画面の楽しい雰囲気は、ヒツジがその毛を商人に刈られて丸裸にされ、「ピンクのへんてこ野郎」になってしまうことで一変してしまう。落ち込んでいたヒツジだが最後に巨体のアメリカンジャッカロープに励まされてまたダンスを始めるようになる話。

「ものの見方さえきちっとすれば、ほら、君は完ぺきだ」。

2004年の作品です。ラストの羊の動きはまさに『バウンディン』。

 

・感想

主人公のヒツジとアメリカンジャッカロープ(?)の奇妙なキャラクター性が面白い短編です。『ファインディング・ニモ』の脇役がたくさん出てきます(あの歯医者も)。水たまりとそこに落ちる雨の描写がすごい。CGの表現に広がりが出てきましたね。飛び跳ねている羊の周りをぐるりと回るカメラワークにも注目です。

 

カメラワークの進歩も見られます。

 

 

『ジャック・ジャック・アタック!』

 

・あらすじ

暗い取調室のなかで誘拐容疑をかけられた女性のベビーシッターを、男の尋問官が問いただしているシーンでスタートする。ベビーシッターは相手をしていた赤ん坊に超能力が発現して、何が何だがよくわからなくなったと供述。瞬間移動、浮遊、怪力、トンネル効果、発火(パイロキネシス)。いろいろな超能力が画面で繰り広げられます。最後には『Mr.インクレディブル』に出ていたあのキャラクター(Sマークが目印)が出てきます! 2005年の作品で、『Mr.インクレディブル』に収録されているものと同じ内容。

 

・感想

取調室でのベビーシッターと尋問官のやり取りと回想シーンを交互に織り交ぜながら進んでいく内容。ストーリーのメリハリ(「落ち着いた取調室」と「超能力でメチャクチャになる家」の違いが象徴している)を学べます。残念ながら音声解説はナシ。

 

 

『ワン・マン・バンド』

 

・あらすじ

一方は赤を基調にした中国の民族衣装を着、トロンボーンを担いで力強い重低音を鳴らす演奏家。もう一方は西洋の小人が着るような緑の衣装をまとい、詩のような音楽を奏でるトンガリぼうしの紳士。噴水が中央に置かれた石畳の広場で、2人の演奏家が「どちらの方が1人の子どもを楽しませることができるか」を競う話。2006年の作品です。

 

・感想

お気に入りの短編2。今の日本への風刺に満ちた短編。

ジョンラセターに「彼らの演奏がBGMになったらダメだ」と指摘され、やるべきことを考えさせられて生まれた作品。観終わった後に口笛を吹きたくなるような映像を見せてくれます。詩のような美しい高音のチェロ(?)とサーカスで聴くような愉快な重低音のコントラストが良いですね。まったく異なる二つの音の重なりもよく考えられています。ピクサー作品のBGMをまとめたアルバムを借りに行きたくなりましたね。

 

ストーリーがほんといい! 最初は人を楽しませようとやっていたことが、いつの間にか他人より自分の方が優れていることを見せつけるためにやるように変わって。で、最後には自分たちの独りよがりな状態に気づいて……。

1人の子どものリアクションで受け手の感情を表現しているのが上手い。女の子が持っているチップのお金は観客の気持ちをシンボライズしているのでしょう。「いまいいところ」と言いたくなるシーンに静寂を持ってきているのも、キャラクターの感情に焦点を当てさせる見事な演出! 勉強になります。

観客の期待を真っ向から裏切る最後のオチも見事。「協調なんてつまらない」と監督も音声解説でおっしゃってましたね。日本人も最後の少女の行動くらい強気に出てみるとよいかも。映画『セッション』っぽい(?)。

 

「キャラクターの個性を音楽で表現する」演出を体感できる短編。

 

 

『メーターと恐怖の火の玉』

 

・あらすじ

「ちょうど今日みたいな夜のことだった。キャデラック山脈の上に月が輝き、コヨーテの遠吠えが響きわたり、夏の風が熱い空気を運んでいた。ルート66を旅していた若いカップルがこの辺りにさしかかったとき、世にも不思議な青い光を見たんだ。後に残されたのは二つのナンバープレートだけだった……」保安官シェリフが陽気なメーターに語った世にも奇妙な話。その火の玉にメーターは襲われることになるのだが、その正体は……。2006年の作品。

 

・感想

カーズのスピンオフ。メーターが主役。彼の恐怖を表現するCGの多彩さや青い火の玉の正体というアイデアが光る短編。音声解説の「短編映画を作っていて面白いのは、キャラクターに惚れ込んでいく点だ」(例のごとく誰が言っているのかは判別できず)という言葉が印象に残りましたね。

 

 

『リフテッド』

 

・あらすじ 

ミュータントタートルズ』のキャラクターをヒョロガリにしたような緑の星人が、いかつい顔のスライム教官の厳しい目のもと超能力(テレキネシス)で熟睡中の青年を宇宙船に釣りあげる試験の話。2007年。

 

・感想

教官のスライムの体の質感が素晴らしい。なめらかで弾力的で、少しヌメヌメしてそうな感じがいいですね。テストを受けている星人がかぶっているヘルメットのアンテナで、彼の感情を表現しているところもポイント。

地味な作品ながら非常に考えられて作られた短編。音声解説を聞くか聞かないかで評価がガラッと変わります。音声解説も、ぜひ!

 

 

このようにバリエーション豊富な短編集となっています。この『ピクサー・ショート・フィルム』でストーリーのパターンをたくさん楽しむことができますし、各短編の演出も面白い。素晴らしい作品集でした。

 

 

ピクサー短編アニメーション その歴史と歩み』

 

本作品に収録されているボーナス・トラック。ピクサー創設当時の様子や苦難、当時の技術の限界などの事柄を、ジョン・ラセターやエド・キャットムルなど創設に関わった重要な人物自身が説明してくれる。20分程度の内容。

 

「スティーブ・ジョブズが上司は最悪!?」の記事で紹介したエド・キャットムルの『手』やコンピューターで最初に作られた背景のCG『ポイント・レイズの道』も出てきますよ。開発したCG技術を発表する当時のコンテストの様子なども流されます。

ジョンの堂々とした語り口や振る舞いがカッコいい! 意外な姿でした。対照的に、『レッズ・ドリーム』の参考にするため催眠術師のように50%オフの値札を揺らしている彼の姿がお茶目。当時の映像や写真もたくさん画面に映ります。

 

「アートとテクノロジーが刺激しあい、研鑽しあう。それがピクサーのやり方だよ」「ジョンは技術の限界のなかでストーリーを生んだ。開発が間に合わない部分をアイデアで埋めたんだ」の言葉が印象に残りました。『ピクサー流 創造するちから』においてエドは、物語が技術をカバーしていく様子について次のように語っています(『アンドレとウォーリーB.の冒険』をコンテストに出展したときの描写)。

 

ところが、締め切りが近づくにつれ、完成が間に合わないことが分かった。より優れたクリアな画像を作ろうとしていたし、映画の舞台を森に設定することでさらにハードルを上げていた(葉っぱの作画で当時のアニメーション技術の限界に挑戦していた)。だが、その画像のレンダリングにどれだけのコンピュータ能力と時間が必要かを考えていなかった。ラフなバージョンは間に合うが、ところどころにフルカラー画像ではなく、フレーム画像(ポリゴンメッシュで作成された最終キャラクターのモックアップ)が入る、部分的に未完成なものだ

プレミア上映の夜、そうしたセグメントがスクリーンに現れるたびに悔しい思いをした。だが、驚くべきことが起こった。我々の心配をよそに、上映後に話したほとんどの人が、フルカラーから白黒のワイヤーフレームに変わったことに気づかなかったというのだ! 物語に感情移入しすぎて、そうした欠陥に気づかなかったらしい。

それは、私がその後自分のキャリアを通して何度も気づくことになる現象に、初めて出会った瞬間だった。美術的な技巧を凝らそうと、物語がきちんとさえしていれば、視覚的に洗練されているかどうかなど問題にならないのだ

 

ピクサー流 創造するちから』-p.64(下線筆者)

 

「物語がきちんとさえしていれば、視覚的に洗練されているかどうかなど問題にならないのだ」の語りが本質をついていますね(↑の会場の様子も録画されていますよ)。「白黒のワイヤーフレーム」の未完成な部分がどのような映像だったのかも紹介されています。『ピクサー・ショート・フィルム』ボーナストラックも必見です。

 

 

13の短編とピクサーの想いを収録した『ピクサー・ショート・フィルム』。ぜひ、ご鑑賞ください!

 

 

Disney・PIXAR GREATES

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