『天使と悪魔』歌詞について考察。世界の終わりの印象が“必ず”変わります!
『天使と悪魔』作詞作曲:深瀬慧 歌:世界の終わり(SEKAI NO OWARI、セカオワ)
落ち着いた静寂のなかに流れる軽快で心地よいサウンド。爽やかながらも一度聴いたら忘れられない印象的なメロディ。どの部分を切り取っても訴求力のある歌詞。一貫した世界観。最初の一小節を聴いただけでもうノックアウトされていましたね。それがこの曲『天使と悪魔』です。
↓セカオワ『天使と悪魔』のMV
二番の「世界を変えると、いうこ~とと……」(3分45秒)あたりで深瀬さんが一度下を向くシーンがイイ! 小さな微笑みがいいですね。この曲は胸の内のストレスの塊を持っていってくれる。解消してくれる。学校や職場で嫌なことがあったときにぜひ聴いてください。Saoriの少し激しいピアノも緊張感を感じさせて何回聴いても飽きさせない。
ほんと良い曲! 『天使と悪魔』の「深い」と評判の歌詞についてこれから考察と持論を述べたいと思います。
“天使”と“悪魔”のムダな争い
まず、序盤の印象的な歌詞↓について考えてみましょう。
大人VS.大人の正解・不正解のバトル
TVで子供らに教える「ダレが“間違って”るか」
悪魔と天使の世界であちらが正しいとか
こちらが間違ってるとかわからないんだ
「大人VS.大人の正解・不正解のバトル」。ワイドショーでの政治についての議論は当たり前ですが、最近はブログやTwitterの内容もそれが「正解か不正解か」の批評にさらされますね。家庭の食卓で両親が「こいつはこれやからアカンねん」と言及したり。そんな姿を見て子どもは「ダレが“間違って”るか」を知ると。面白い歌詞ですね。
その子どもたちも大人になったら自分より下の人間に同じように「ダレが“間違って”るか」を教える。彼らもまた下の人間に「間違い」を知らしめる。その悪循環は続いていく……誰かが疑問を持たなければ。この曲は「どちらが正しいか」はわからないという真理を説いて「ダレが“間違って”るか」ループにブレーキをかけようとしているのかもしれません。
……ところで。
天使と悪魔ってどのような人(集団)を指しているのでしょう? 人それぞれイメージは異なると思いますが、たとえば想像するのが天使は「TVのタレント・コメンテーター」や街角インタビューに答える「市民」、悪魔は「炎上中の政治家やグループ」。そんなイメージがあります。
天使は自分たちには“道徳”があると思っているし、悪魔は悪魔で自分たちには“賢さ”があると思っている。お互い“道徳”と“賢さ”という違う武器を振りかざして言い争うが、論点がズレているから解決など起こりようもない。まるで中学生が集まって嫌いな教師の悪口を言っているような構図です。そして「人生経験が足りないからだ」と教師側は相手にしない。赤ちゃんの泣き声ほどの無力さを感じてしまいますね。
悪魔側:バカな天使どもがまたギャーギャー騒いでるだけで、俺は賢いから問題はない
天使側:日々学ぼうともせず一番簡単な「騒ぐこと」を選択し、「騒ぐこと」しかできない
……これで何が解決できます?
権力を持つ人間への最大の武器
権力を持っている人に対して。僕は別の人への賛美(+嫌いな人への無関心)が最大の武器かな~と考えています。一つ一つの所作に対して「それはダメ、それは反対!」と反応し続ければ、「馬鹿がまた騒いでいる」と向こうは決めつけてきます。バカな(と思われる)姿を見せることで「アイツらはバカで俺は賢い」と自分を肯定する材料を与えてしまっている。批判がエールになっている。そんな状態に気づかなければいけません。
誰かを否定するより、別の誰かを肯定しよう。その肯定を発信しよう。良い人に注目が集まればその人はより頑張れるし、あの人へは無関心が向けられるようになる。それはつまり、自己を肯定してくれる批判者を失うこと。「俺は賢い!」といくら唱えても誰にも聞いてもらえなくなること。それって最高じゃない?
気に喰わない政治家を非難することより、良い政治家を見つけ、発信し、注目を向けさせる。ただの無関心は無責任ですが、誰かを肯定しつつ抱く無関心は環境をより良くしていく。それは可能か不可能か。皆さんはどう考えますでしょうか?
ミュージシャンの役割
もし僕が正しくて君らが間違いなら
僕らは戦う運命にあるの?
「僕ら」が変わるってことは「世界」を変えるということと
ほとんど同じなんだよ
おそらく他人を変えることはできないから、僕らはコミュニティを作ることしかできない。コミュニティを作るためには素晴らしい人について知ることが不可欠です。自分が良い人を見つけるか自分を見つけてもらうか。ここが大切なんだと思います。そしてその“良い人”の姿を見せてくれるのがミュージシャンであり、アスリートであり、芸術家である。
↑の歌詞はコミュニティを作るというのがミュージシャンの偉業だということに気づかせてくれました。良い楽曲はマイノリティをマジョリティに変える一瞬を作る。受け手を「嫌いな人間」から解放できるし、その人への無関心も引き起こせる。それぐらい熱中させられる。「戦う運命」を忘れさせられる。つまり、『天使と悪魔』は名曲です。
劣等感とイジメ
戦うべき「悪」は自分の中にいるんだと
「世界」のせいにしちゃダメだと僕はそう思ったんだ
本当に「戦う運命」にあるもの。「戦うべき悪」とは劣等感のことだと思います。ギャーギャー騒いでいる人もイジメをしている人も自分の劣等感から目を背けている。何もしていないと劣等感の根が急速に伸びて襲ってくるから、それを押さえつけるために誰かを「押さえつける」。非難したり批評したり。その対象となる目の前の相手は自分の劣等感の影なのですね。劣等感から目を背けば、ほら、イジメるべき相手がそこにいるよ、と「自分の中の悪」はささやくわけです。そんな誘惑にあらがえなかった大人(親)の姿を見て、不平不満ばっかり言っている彼らを見て、子どもはイジメの仕方を知るのでしょうね。
(↑の本で「子どもは両親との関係性を学校で“再現”している」と書いてあってナルホドと思った。つまり、イジメをする子は家での服従関係を学校に持ってきて、その関係性を他の生徒に強いているということ。もちろん自分は上の立場で。これがイジメの構図だったのですね……)
「悪」と戦うとは劣等感に立ち向かうということ。劣等感に立ち向かうということは「考え続ける」ということ。“何”をすればいいか、“どう”したらいいか。この「考え続ける」ということをしなくなった人が軽薄に卑怯に他人を否定する。というシーンが蔓延している。教室でも職場でも家庭でも。
この曲を聴いて「彼らは天使だ彼らは悪魔だ」と批判するようになることも、自分の中の悪に立派に目を背けた行為なのだろう。
歌詞の最後にある「否定を否定する」ということとは?
否定を否定するという僕の最大の矛盾は
僕の言葉全てデタラメだってことになんのかな?
「どっちが正しいどっちが間違いだ?」ではなくて「間の答えを見つけよう!」とこの曲は言っている。この答えは結局、互いに否定しあう両者のあり方を否定している。“否定の否定”というわけですね。相対主義に対する批判↓にも通ずる考えさせる歌詞。
相対主義は典型的には「いかなる命題も、絶対に正しいということはない」というような主張を含んでいる。しかし「『いかなる命題も、絶対に正しいということはない』という主張自身は果たして絶対に正しいのか、それとも、絶対に正しいということはないのか」という点をめぐる矛盾が発生する。もしも相対主義が正しいとしたら、いかなる命題も絶対に正しいということはないはずなのだが、それならば、「いかなる命題も絶対に正しいことはない」という命題も絶対に正しいということはなく、したがって「絶対に正しい命題」が存在するはずで、それは相対主義の基本的な主張と矛盾するため、相対主義は間違っているというものである。
「“正しい”ことはないと言うために“正しい”ことを言う」相対主義の欠陥に似ていて、「“否定”をやめようと言うために“否定”を使わなけらばならない」という矛盾があるということです。が、う~んここの歌詞を聴いていてなんか違和感あるな~と思っていました。で、その理由は「否定」と「提案」の違いだということに気づきました。否定は自分の不利な点を無視して「いいからやろうよ!」と強制する一種の“甘え”ですが、提案は行動を無理に要求しているわけではない。もっといえば提案するためには二つのステップを踏まないといけない。
① 相手の言い分を聞き、理解すること
② 解決策を提案するためにアイデアを出すこと
この二つの難しい段階を乗り越えてやっと、問題は真に解決できるのでしょう。二つの努力をして初めて「提案」ができる。「提案」する人は体が前を向いている。一方、「否定」する人は後ろに向かって口を動かしている。
僕らはいつも「答」で戦うけど
2つあって初めて「答」なんだよ
二つの主張の間の選択。「否定」ではなく「提案」すること。それを大切にすれば、悪魔でもなく天使でもない人間でいられるよ。と、この歌は教えてくれているように感じます。
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