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『作曲少女』購入。プロの作曲過程をわかりやすく追体験できる良書!感想と解説をば。

作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~

『作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~』感想と解説やります!

「理論書など Go to Hell! なのです。

 

『作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~』(仰木日向著、2016年7月10日発売)購入しました! 帯にある「作曲入門ライトノベル」らしく軽めで読みやすい文章ながら、物語はかなり重厚な How to 本。かたや初心者、かたや天才作曲家。この二人の女子高生のやりとりをメインに“作曲の過程”が解説されます。

この『作曲少女』、How to 本によくあるような「読みやすさのためだけに登場人物が用意されている」ような本ではない点がユニー。二人の悩みや過去、日常がちゃんと描かれています。小説のレベルで。テーマのためにストーリーやキャラクターを急ごしらえしたわけではない内容が好印象でした。ラストの一章を読むときは一抹の寂しさも感じましたね(もう終わりか~って)。

挿絵の四コマも面白かった!(まんが・イラスト担当はまつだひかりさん)。ラストの締め方も上手く余韻あるエピローグはまさに小説らしい終わり方で、実力ある作家さんだと感じましたね。

 

↓表紙

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↓マウスパッドとの大きさ比較(それなりに大きいですね)

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↓厚さ(カバーを付けたまま撮っちゃったけど、同じ本です)

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作曲やってみたいな~。フリーソフトもいろいろあるようで導入は結構簡単そうなんですよね。年末年始は暇だし(いつも通り)。……やってみる?

↓では本書の「小説らしさ」や「良いHow to 本の条件」、「巧みな比喩とテクスチャー」について語っていきます。

 

 ↓目次です

 

小説“らしさ”

 

作曲未経験者の主人公「山波いろは」は超高校級現役女子高生天才作曲家(ライトノベルっぽい設定の)「黒白珠美」に作曲を教わるようになります。初日から四日目までは作曲のレッスンが順調に進むのですが、5日目(章題は『越えられない壁の話』)でベースの耳コピがどうもうまくいかない……珠美から「大体、この曲はメロディもベースもハモもわかりやすいし、かなりイージーだぞ? これくらいパパッと――」と簡単に言われたいろはは「だから、わかんないんだってば!」と反発してしまいます。

二人のレッスンは5日目でケンカに発展することになるのですが、その後の二人のやりとりが“未経験者の心理”に肉薄していてなかなか重い内容でした。作曲初心者が挫折をむかえる一連の描写が一番小説“らしい”と感じた部分でありまして、これから引用します。

 

まず、“耳コピ”が完成できず自暴自棄になるいろはの心中の想いから。

 

ダメでもいいよね。別に。全部ちゃんとしてる人の方が珍しいんだから。大体、普通に考えて私が作曲家みたいなことするなんて変だったんだよ。向き不向きってものがあるし、創作は珠ちゃんみたいな本物の人がやるべきだと思う。私みたいな普通の人がちょっとやってみた程度でできることじゃない。

(省略)

ああなんか、私、結局何も続かないなぁ。これを繰り返すたびに、どんどん自分が嫌いになる。今までなんだかんだ、笑ってごまかしてきたけど、そろそろくたびれたかも。

p.110(下線筆者)

 

何かを始めて、結局よくわからないままやらなくなって。自分は“凡人”だという諦観を重ねていく。作曲に関わらずどんなこと(趣味)を習うにしても起こる現象。つまり、どんなことにも夢中になれない自分……ということなんですが、そんないろはに対し、珠美は諦めずにメールを送り続けます。

 

『いろは、今日は来ないのか?』

『昨日のことなら気にしなくていいぞ』

……。

『もうちょっとわかりやすいやり方考えてみたから、今日も続きやろう。3時頃うちに集合な!』

『メールが既読になってないみたいだし、電話してみたけど繋がらなかったから、ちょっとそっち行くぞ』

p.130-131

 

「メールが既読になってないみたいだし」のところに妙にリアリティがありますね。珠美から、“作曲”から、逃げ続けていたいろはでしたが、このメールを見て「もう一度頑張ってみようかな」と考え直します。そして……6日目のレッスンがついに始まる! ↓は“作曲初心者に贈る”そのときの珠美の名言です。

 

「あたしがその自己嫌悪スパイラルから抜け出せたのは、『嫌いにならないところまでとりあえずやる』っていうことを1回やり切れたからなんだ。どんなスポーツも、創作も、遊びも、最初は難しくて本当のおもしろさなんて絶対にわからない。でも、そこでやめたら、ただそれを嫌いになるだけじゃなくて、自分のことまで嫌いになる。だから、ちゃんと遊び方を覚えて、何がおもしろいのかをちゃんと理解して、それでもつまらないと思ったならその時はやめればいい。そう決心して、あたしが初めてちゃんとできるようになったのが、作曲だったんだ」

p.137(下線筆者)

 

ここで止めたらいろはの“凡人”感がますます深くなってしまう。とりあえず一つは最後までやりきる。“その後”はそれから考えたらいいんじゃないかな、と。最後までたどり着けずにもがき苦しむ初心者の葛藤について、124ページの珠美の独白も心に来るものがある。「お前わかんのかよ……向いてないのに、うまくならないのに、それでも何とかしなきゃって思ってラケット振ってるあたしの気持ち、あんたわかんのかよ……」って(珠美にも挫折があった)。最後までやりきる。それが自信になる。

 

そして始まる“耳コピ”の様子がホント楽しそうなんですよ! 自分でもできそう! って思えますし。

 

 

良い「How to 本」=“できそう”+“楽しそう”

 

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いろはが一つずつできるようになったり、やっぱりできなくて挫折しそうになったり。読んでて楽しいんですよね。早く次のページに進みたくなる。良い How to 本は“読んでてわかる”“読んでて楽しい!”が共存しています。その例にならって『作曲少女』も読書が苦痛でも努力でもなんでもなくて、簡単にできる“楽しい息抜き”なんですよね。以下、「努力」と「夢中」の違いについて。

 

「たとえば努力ってあるだろ? 何かを作る時もそうだし、たとえばスポーツだってそう、努力をすることでそれはうまくなるってみんな思ってるけど、実はそうじゃないんだ。実際のところは、夢中で人はうまくなる。『努力は夢中に勝てない』んだ

「努力は夢中に勝てない?」

「うん。どんなに一生懸命努力したとしても、努力してるかぎり、夢中になってる人には絶対にかなわない」

「それってどういうこと?」

「ハッキリ言うと、努力してる時点で向いてないってことなんだ」

p.77(下線筆者)

 

「努力は夢中には勝てない」と珠美は言います。その言葉のとおり本書は「努力」ではなく「夢中」を促してくれる。目の前のHow to 本が“読み切れるのか”“10ページで終わってしまうのか”は、「わかる+楽しい」この二つの要素がその本にあるかという理由だったのですね。本書は二人の登場人物への“感情移入”を誘導することで「楽しさ」を演出していますが、では「わかりやすさ」はどのように作っているのか。そのポイントは“比喩”です。

 

 

比喩が巧みでわかりやすい!

 

『作曲少女』には「個性的な制作机と作曲の姿勢」「外国語学習と音楽理論の勉強の似ている点」「メロディが主人公で他の要素は世界を作っている」「“キー”の概念とカラオケ店が“やっている”こと」「テクスチャーとアルファベット二文字の合体(挿絵)」などなど多彩な比喩があり、わかりにくさを感じさせない工夫が凝らされています。

……たとえば、英会話と音楽理論のハナシ。

 

「だからね、音楽を身に付けていく順序を整頓するとこうだ。『ちょっと日常会話ができるようになる』→『ちゃんとした文法で喋れるようになる』→『おもしろいジョークで人を笑わせられるようになる』。いわゆる理論書が必要になるのは、そのちゃんとした文法を身に付けるってタイミングなんだよ。だから、まず1曲を仕上げるっていう日常会話の段階では、まだ必要ないんだ

p.49(下線筆者)

 

この本で学習するのは「日常会話ができるようになる」段階の話なのですね。↑に書いてあるように難解な音楽理論はほとんど出てこず、作曲の楽しさを伝えることで「今すぐやりたい!」って気にさせてくれる。英会話で例えると「早く話したい!」という感じ。読者がその感覚を持てるよう考えて文章を練られています。

 

曲の構成の映画製作に例えながらの解説も上手い! メロディやベースなどの役割を↓のように説明されています(ベースの役割がメチャクチャわかりやすい!)。

 

「現状については、今いろはが曲を聴く時に注目してるのは主人公とセリフだけって感じなんだ。でも、それ以外の部分にもしっかり注目すると、その映画の全体的な仕組みがわかってくる。あたしにとって曲っていうのは――

 

・主人公(メロディ)

・セリフ(歌詞)

・敵役(ベース)

・脇役(ハーモニー)

・世界観(リズム)

 

大きく分けてこの4つの役どころで成り立ってるイメージなんだ」

「敵役がベースって、そうなの? なんかベースって、もっと影で支える的なそういうのっていう印象があるんだけど……? 目立たないし……」

(省略)

「たとえば、メロディは普通の青年で、ベースは敵役でマフィアのボスの超ヤバい奴。この時点でもう映画の雰囲気って大体決まるだろ?」

「まぁ、そうかも」

「じゃあもうひとつ別のパターン。メロディは同じ青年で、ベースは恋敵の親友。ほら、ストーリー自体が全然違う話になるだろ?」

「あ、ほんとだね。なんか急に青春モノみたいになった?」

「ベースっていうのは、それくらい曲の雰囲気を決定するんだ」

p.66-67

 

ベースを変えるだけで作品の雰囲気も変わっていく。作曲する際もベースを敵と想像しながら主人公(メロディ)との対話を考えて作っていけばいいと。なんとなくですけど自分が作曲しているイメージが浮かんできた。

ここまで引用した箇所を見ていただければよくわかると思うのですが、本書に専門用語はほとんど出てきません(“コード”と“キー”くらいかな)。非常にくだけた語り口+具体的な練習方法・エピソードで説明されています。“わかりやすい”ですね。

 

比喩だけでなく『脳内補完』(メロディを作っている時に伴奏も自然に頭の中で鳴る現象)や『カラオケ型メロディ作曲』(メロディだけ抜いた演奏をメインに「キーの7つの音」だけ使ってオリジナルのメロディを作る)など面白い概念もたくさん出てくるよ。とくに、『テクスチャー』の話が斬新でした。

 

↓『テクスチャー』ってこんな感じ

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『テクスチャー』とは……。

二つの楽曲からメロディとベースをそれぞれ抜き出して、一つの楽曲にする。そして片方の「テンポ」と「キー」(音の高さ)を合わせることで新たな組み合わせの曲を作ることができる……と、いうことです。もちろん不釣り合いな部分が多々出てきますから、チョットずつ直していかなければなりません。その“修正していく過程”でどんな音を配置すればいいのかを自然に学んでいくと。良く考えられた学習方法ですね。

 

 

13章14章(13日14日)で主人公いろはが曲を作っていくサマは圧巻の一言。こんな風に曲が成立していくのか~という瞬間を体感できます。1-12章で勉強したことがちゃんと繋がっているのもすごい。『作曲少女』楽しくて実用的な本でした!

 

 

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↓次はこの本で勉強する予定

作りながら覚える 3日で作曲入門

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